30~49歳の離婚
- 離婚に関する問題点の全てが網羅されている年齢帯となります。
離婚に関する問題は、大きく分けて5~6個に分けられます。すなわち、
- 親権・監護権(子に関する事項の決定権者を夫婦のどちらにするか?)
- 養育費(親権を得られなかった親から、得た親に対する子の生活費の支払)
- 財産分与(夫婦で築き上げた財産の清算(と扶養的財産分与)等)
- 慰謝料(不貞やDV等があった場合の、被害者から加害者への精神的損害の賠償請求)
- 未払婚姻費用(生活費の未払いがあった場合の支払義務者への請求)
- 面接交渉権(親権を得られなかった親から、得た親に対する子の面接を求める権利)
です。そして、そもそも、これらの問題は、上記30~49歳という、婚姻中の夫婦において最も一般的にイメージされる年齢帯において生じ得る各問題点を想定しています。
逆に言えば、この30~49歳という最も一般的な年齢帯において生じる問題点が、まさに離婚における各論点になっていると言えるのです。よって、この年齢帯についてコメントすることは、離婚の一般的な各問題に対してコメントすることに他なりません。よって、以下では、上記年齢帯に特に特色のある点についてのみコメントしておくことにします。
- 特にこの年齢帯に見受けられる特徴一般について
- 男女に限らず、仕事や収入も安定しているため、家庭生活にも比重を置く年齢帯であること
- 特に女性に言えることですが、まさにお子様を出産・育児する年齢帯であること
- 収入も安定しているため、住宅ローン等を組んでマイホームを購入する年齢帯であること
- 生命保険も、保険料が安い掛捨型から、積立部分もある貯蓄型にも加入していく年齢帯であること
- お子様の将来のために学資保険等も契約することが多くなる年齢帯であること
- マイホームと同様にマイカーを保有することが多い年齢帯であること
- 夫婦によっては余裕資産等も出てくることから、有価証券・投資信託・不動産投資等、投資に回す資産も出てくる年齢帯であること
- 夫婦となってちょうど5~25年程度経過するために、いわゆる「倦怠期」等を迎え、夫婦間の「すれ違い」も増え、かつ、金銭的な余裕もあり、肉体的にも精神的にも性欲も強い年齢であることから、不貞行為(不倫)も多い年齢帯であること
- 上記「倦怠期」も関係するでしょうが、夫婦間におけるDV(ドメスティック・バイオレンス)も増える年齢帯であること
Contents
個別問題の中での特徴について
親権・監護権について
お子様の年齢が、乳幼児期から上は25歳程度まで、と幅がありますので、親権・監護権を夫婦のどちらに認めるべきかについては、ちょうどお子様の年齢による親権・監護権決定についての家庭裁判所の傾向(※1)がほぼ当てはまることになります。
よって、この傾向に敢えて逆らって違う結論を得ようとする者(例えば乳幼児期の子の親権・監護権を求めようとする夫)は、それなりの覚悟と入念な準備が必要となります。このような準備は、通常は専門家の手助けが必要になるものと思われますので、弁護士にご相談下さい。
※1
子の年齢別の親権・監護権者の簡易判断方法 | |
ア 0~10歳(子の年齢) | 母が指定される可能性が高い。 |
イ 10~15歳 | 父・母に優劣が付けられない場合には母とされる可能性が高い。 |
ウ 15~20歳 | 子供自身の意見が尊重される。 |
エ 20歳以上 | 成人に達しているので親権者を決める必要はない。
親権が存続するのは子供が20歳になるまでである。 ※民法第4条、818条1項 |
- 養育費について
端的に申し上げれば、上記親権・監護権を得られなかった親(例えば夫)は、これを得た他方の親(例えば妻)に対して養育費を一般的には毎月一定額を支払う必要があり、この金額は、夫婦相互の年収とお子様の数と年齢により決められます(家庭裁判所等における簡易算定表等)。
ここでの30~49歳という年齢帯は、ちょうど年収も増えていくと共にお子様の数や年齢も増えていくことになりますから、養育費の月額も通常は上がっていくことになります。
上記算定表は今やインターネット上でも見ることができますが、万が一算定において不明点等があれば(例えば前婚における子がいるとか親の介護が必要になったとかの個別事情がある場合等)、専門家である弁護士等にご相談下さい。
財産分与について
- 不動産について
30~49歳の年齢帯だと、住宅ローンを組んで購入した自宅が中心となると思われ、かつ、ローンを組んだ年数にもよりますが、まだローンが残っている世帯がほとんどではないかと思われます。
まれに裕福な方であれば投資用のマンション等を購入した方もいらっしゃるかもしれませんが、さすがに現金で一括購入する方などは稀有の存在といえ、やはり事業ローンを組んで購入している方が大半だと思われます。
いずれにせよ、ローンが残っている物件については、離婚時に分与すべき財産の算定をする際には、物件の時価-残ローン額が分与の対象となります。
仮にこれがマイナス(=所有不動産がいわゆるオーバーローン状態ということ)の場合には、マイナスすなわち負債を離婚時に夫婦間で清算する必要が出ます。
なお、特に自宅不動産の場合、夫婦のどちらか一方が取得を希望するケースも多いものと思われますので、その場合には、本来売却したら手に出来ていたであろう上記査定額から残ローンを控除した金額の半分を、自宅不動産を取得する側が取得しない側に支払う必要が出ます。自宅とはいえ、不動産が絡む場合の財産分与は、その金額の算定等も高額となり、かつ若干複雑になるので、専門家である弁護士にご相談下さい。
- 預貯金について
通常のご夫婦であれば、婚姻後、少しずつでも貯蓄してきているはずですので、離婚時には、婚姻時よりも残高は増えているはずだと思われます。
30~49歳の年齢帯のご夫婦の場合、確かに出産・育児・進学といったお子様たちにかかる費用に加え、自宅やマイカーの購入など、出費はかさみますが、それでも諸外国に比べて貯蓄率の圧倒的に高い我が国の場合、少しずつでも預貯金が増えているご夫婦がほとんどではないかと思われます。
よって、婚姻時の残高と離婚時(正確には「別居時」以下、財産分与について全て同じ)の残高の差額を、離婚時に、夫婦で基本的には折半する、というのが一般的となります。
- 保険類について
30~49歳の年齢帯のご夫婦の場合、積立型(貯蓄型)の生命保険や学資保険のように、仮に保険契約を解約した場合には、解約返戻金が支払われる契約も増えてくるものと思われます。そこで、このようなものについては、仮に婚姻中に契約したものについては、離婚(別居)時の解約返戻金額を、婚姻前から契約していたものについては、婚姻時の解約返戻金額と離婚(別居)時の解約返戻金額との差額を(ということは、婚姻中(後)契約のものは婚姻時の解約返戻金額は0円となりますので、結局、総じて「婚姻時の解約返戻金額と離婚(別居)時の解約返戻金額との差額」で正解です)、夫婦で基本的には折半する、というのが一般的となります。
なお、解約返戻金をいわば担保に生命保険会社等から借り入れをしていた場合には、当然ですが、その借入金と利息を控除した解約返戻金残額が、上記分与の対象となります。但し、この借入金を、例えば夫が、専ら自己のみのために費消してしまったような場合には、財産分与時に調整(実質的には「弁償」という)が必要となる場合があります。
- 株式等有価証券について
30~49歳の年齢帯のご夫婦の場合、ご夫婦の経済状態にもよりますが、徐々に余裕資産も生まれ、将来への利殖のために株式や投資信託等の有価証券類へ投資し始めている方々も多くなるものと思われます。これらの資産についても、上記③と同様に、総じて「婚姻時の(時価)金額と離婚(別居)時の(時価)金額との差額」を、夫婦で基本的には折半する、というのが一般的となります。
- 自動車について
30~49歳の年齢帯のご夫婦の場合、マイカーを所有することも多いものと思われます。自動車の場合も、①の住宅の場合と同様、離婚(別居)時の査定額を折半するのが通常の夫婦間での財産分与となります。但し、住宅以上に、夫婦のどちらか一方が取得を希望するケースが多くなるものと思われますので、その場合には、本来売却したら手に出来ていたであろう上記査定額の半分を、自動車を取得する側が取得しない側に支払う必要が出ます。
- 家財道具等の動産類について
30~49歳の年齢帯のご夫婦の場合、十数年から数十年に亘っての家財道具等動産類が自宅等にあるのが通常と思われます。しかし、離婚の場面に限らず、このような家財の動産類は、財産的価値としてはわずかなことがほとんどです。
これに対し富裕層の方がお持ちの貴金属や宝石類、高級時計等や絵画・骨董品等、高級家具類は、ものによっては鑑定等評価額がかなり高額なものもあります。長年愛用してきていて、それなりに価値がありそうな動産類については、一度、是非、鑑定等をして、そのものの正確な価値を把握した上で、夫婦共有財産であるならば、財産分与の対象にして下さい。
- 将来の財産(退職金や年金等)について
30~49歳の年齢帯のご夫婦の場合、退職金については、退職時までまだ30年以上、少なくとも15年程度は残されていることがほとんどと思われます。よって、離婚時の直後に退職ということにはならないものと思われます。
このような場合、一般の民間企業にお勤めの方の場合、退職時までにその企業が存続しているか判らないという判断もあり得ますので、離婚時に財産分与の対象になるのかは争いがあります。逆に公務員等の場合には、退職時まで勤め先が存続していることが通常でしょうから、将来支払われるであろう退職金であっても、離婚時の財産分与の対象とされることが通常です。
しかし、仮に財産分与の対象とされても、金額は、退職金の積立期間(=通常は勤続年数)に占める婚姻期間で按分され、それを通常の夫婦の場合折半ということになります。かつ、分与時期も将来の「退職金受給時」とされる可能性もあり得ます。
但し、年齢からすると退職時までかなりの長期間となるので、受給時まで待たずに離婚時に分与すべきものとされることも多くなるものと思われます。
また、年金については、年金事務所等から、「年金情報通知書」というものを受領し、そこに記載されている年金中の報酬比例部分について、夫婦双方、通常0.5の割合(=折半)で年金分割する、という内容になります。
年金はともかく、特に退職金については勤務先や退職時までの年数等により結論が変わり得ますので、弁護士等にご相談下さい。
慰謝料について
30~49歳の年齢帯のご夫婦の場合、上記特色のとおり、不貞やDVが比較的多くあり得ます。配偶者が不貞行為(不倫)をしたりDVをした場合には、された側(被害者)は、した側(加害者)に対し慰謝料請求をすることができます。
慰謝料の金額は、主として、した行為の内容(例えば不貞期間や暴力の程度等)・生じた結果(例えば夫婦関係の破綻を招いた、または傷害結果等)、夫婦双方の収入や経済状況等を総合的に考慮して決められます。金額のみを単純に決められるものでもありませんので、一度弁護士にご相談下さい。
未払婚姻費用について
30~49歳の年齢帯のご夫婦の場合、双方働いて収入もあることがほとんどでしょうから、婚姻費用、いわゆる生活費もきちんと支払われているケースがほとんどだと思われます。
しかし、例えば別居期間が長くなった夫婦のような場合には、婚姻費用が支払われずに、離婚時の未払婚姻費用が多額になることもあり得ます。未払婚姻費用が具体的にいくらになるのかについても、上記養育費と同様に、夫婦双方の年収と子の数と年齢に応じて算定表等によって決められます。
養育費との違いは、例えば受領者が妻の場合に、妻一人分の生活費も、養育費と異なり婚姻費用には含まれる、という点です。特に年収が多額の方は支払うべき婚姻費用も多額となり得ますので、金額については、一度弁護士にご相談下さい。
面接交渉権について
親権・監護権を得られなかった親が得た親に対して子に会わせることを求める権利のことを面接(面会)交渉(交流)権といいますが、30~49歳の年齢帯のご夫婦の場合、子が乳幼児から25歳位まで可能性があるところ、親権・監護権の対象となるのは20歳(但し、改正民法の令和4年4月1日の施行後は18歳(民法4条))までですから、20歳以上の子については、そもそも面接交渉権の対象にはなりません。
そうすると、乳幼児から20歳(令和4年4月1日以降は18歳)までの各子についての面接交渉権を考え得ることになりますが、一般的に、特に定める必要性が高いのは、子が自分の意思で連絡を取ったり会いに行くことができるようになるであろう小学校高学年位までと考えられています。それ以上の年齢の子になれば、親同士が面接交渉させなくても子が直接動けることになるからです。
よって、乳幼児から11歳位までの面接交渉権については、離婚時に夫婦できちんと決めておいた方が望ましいです。かつ、11歳以上でも、子が親権者でない親に積極的に連絡を取りたがらないような場合には、やはり親権者となった親の方から子が面接するよう働きかける必要が出たりする場合もあります。このように、子との面接交渉について、夫婦間での調整が必要な場合等にも、弁護士にご相談下さい。
弁護士 鈴木軌士
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